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【言葉にならない声が描くかたち──先天性口蓋裂による発話障害のアート】

 

◆ 発話の困難さがもたらす「表現の空白」

先天性口蓋裂は、生まれつき口腔や口蓋の形成に特徴があり、手術や言語訓練を経ても発話に困難が残る場合がある。会話のテンポについていけない、誤解される不安がつきまとうといった経験は、発話そのものを控える選択につながりやすい。その結果、言葉で表現されない感情や思考が内側に溜まり、「表現の空白」が生まれることがある。

 

◆ アートがひらく、非言語のコミュニケーション

この空白を埋める手段として、アートは重要な役割を果たす。線の強弱や色の重なり、余白の使い方は、発音や語彙に依存しない自己表現を可能にする。特に手書き風の抽象表現では、声にならない違和感や緊張感が、そのまま画面に刻まれる。見る側は「正しく理解する」よりも「感じ取る」ことを求められ、対話の重心が大きく変わる。

 

◆ 当事者の経験が作品構造に与える影響

先天性口蓋裂による発話障害をもつ作家の中には、あえて不均衡な構図や断続的なモチーフを用いる人がいる。これは、会話の途中で遮られる感覚や、言葉が滑らかにつながらない体験を、視覚的リズムとして再構成したものと捉えられる。こうした作品は、完成度や技巧よりも、経験のリアリティが前面に出る点に特徴がある。

 

◆ 社会との接点としてのアート活動

アートは個人的な表現にとどまらず、社会との新しい接点を生む。たとえば、障がいのある作家の作品を紹介するプラットフォームである「アートの輪」では、言語障害を含む多様な背景をもつ作家の表現が並び、鑑賞者は作品を通じて作家の存在に出会う。

また、一般社団法人障がい者アート協会の活動では、作品展示や企業連携を通じ、当事者の表現が社会に流通する仕組みが整えられている。

 

発話に困難があるからこそ生まれる視点や感覚は、アートという場で独自の価値を持ち始める。言葉以外の表現が正面から受け止められるとき、そこには新しいコミュニケーションの可能性が静かに立ち上がってくる。


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