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【先天性視覚障害のアート — 見える/見えないを超えてひらく表現の可能性】

◆ 視覚以外の感覚を豊かに活かすアプローチ

視覚を主要な感覚としないアーティストにとって、触覚・聴覚・身体感覚が表現の中心となる。例えば、トルコの画家 Eşref Armağan は、幼少期から視覚を持たないながらも独自の方法で絵画を描き、遠近感や形態表現を実現している。筆を使わず自らの指で絵具を塗り込み、世界の質感をキャンバスに再構築する手法は、視覚中心の技法とは異なる感覚的プロセスを示している。

 

また、視覚障害者向けアート展示の中には、香りや音など視覚以外の感覚を介した鑑賞プログラムが組まれるものもあり、感覚の多様性を促す試みも進んでいる。こうしたプログラムは、芸術体験のカタチを拡張し、視覚中心では捉えられない豊かな感受性へと観客を誘う。

 

◆ 先天性視覚障害者の創造体験 ― 触覚と身体動作の統合

芸術制作のプロセス自体が、知覚と身体感覚の統合として捉えられるケースも多い。インドネシアの調査では、弱視当事者が粘土を使って作品をつくるプロセス経験が深堀されている。そこでは触覚や手の動きが中心となり、表面の感触や素材との対話を通じて「感じるアート」が生成されていくという。作者たちは視覚的イメージではなく、素材への身体的な反応からインスピレーションを得ている。MDPI このような体験は、先天性視覚障害者が「描く/つくる」という行為をどのように捉えているのかを示す重要な事例である。

 

さらに、視覚障害者が集うアートイベントやワークショップでは、ノールック(視覚が中心ではない)な制作や鑑賞の方法が提案され、参加者が自身の感覚を基準に表現を模索する場として機能している。こうした実践は、障害の有無にかかわらず、体験の「質」でアートを語り直す契機となっている。象の鼻テラス ZOU-NO-HANA TERRACE

 

◆ 多様な視点が芸術の理解を豊かにする

先天性視覚障害のあるアーティストが共有する表現は、視覚中心主義からの脱却を促すと同時に、芸術の根源的な問い ― 「感じるとは何か」「表現するとは何か」 ― を再定義する役割も果たしている。視覚に依存しない造形や触覚による作品は、鑑賞者自身の感覚を刺激し、これまで見落としてきた身体知覚や多感覚表現の豊かさに気づかせてくれる。

 

今日、先天性視覚障害者のアートは、限定的な障害カテゴリにとどまらず、芸術一般の理解を深化させる役割として位置づけられつつある。制約と呼ばれる状態が、実際には多様な知覚と創造性をひらく鍵となっているのである。


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