■ 最重度知的障害とは — 定義と特徴
知的障害とは、知能(認知、推論、学習など)と適応行動(コミュニケーション、日常生活、自立行動など)の両面で著しい制限があり、発達期に生じるものとされます。その重症度は一般的に「軽度」「中等度」「重度」「最重度」と分類され、最重度は「おおむねIQ20未満」程度とされることがあります。ただし近年では、単にIQだけで分類するのではなく、言語能力や社会性、日常生活スキルなど「適応機能全体」を総合的に評価する方法が重視されています。
最重度の方の多くは、言葉による意思疎通が困難で、ごく限られた単語や身振りでやり取りをする場合があります。また、日常的な身の回りの世話(食事・排泄・着替えなど)には、ほぼ全面的な支援が必要となることが多いです。
■ 医学・医療的ケアの実情と留意点
医療ニーズの高さと、多様な合併症
最重度知的障害のある人は、知的機能の低下に加えて、重度の運動機能障害、てんかん、感覚障害(視覚・聴覚など)などを併発するケースが多くあります。いわゆる「重症心身障害」として医療的ケアを必要とする例も少なくありません。
たとえば、嚥下障害による飲食困難への対処として経管栄養が必要になったり、誤嚥防止や痰・唾液の管理のために吸引が行われたり、てんかん発作の管理として抗てんかん薬の投与が行われたりするなど、生活と健康を維持するための医療的ケアが求められます。
さらに、口腔ケアや定期的な歯科受診も重要とされます。重度・最重度の知的障害を持つ人は、自分で口腔清掃を行うことが難しいため、ケアが不十分だと虫歯・歯周病・誤嚥性肺炎など、深刻な健康リスクにつながることがあります。
診断と評価の方法
診断には、知能検査(たとえば幼児や発達期には発達検査、年齢に応じて知能検査など)が用いられます。加えて、日常生活の適応能力を測る尺度(たとえば適応行動尺度など)も使われ、「知能水準」だけでなく、「社会性・実用性も含めた総合的な判断」が行われます。ただし、IQ20未満の場合、検査上「測定困難」という判断になることも多く、数値ではなく「日常生活でどの程度援助が必要か」によって程度が判断されることが少なくありません。
支援のあり方 — 医療と福祉の協働
最重度の方にとって、医療と福祉の連携は不可欠です。医師、看護師、歯科医、理学療法士、言語聴覚士、ケアワーカー、福祉施設スタッフなど、多職種によるチームで関わることが多く、日常の食事・排泄・体位変換などの介助、てんかんや呼吸状態のモニタリング、定期的なケア、そして身体的ストレスを減らす身体・環境の調整などが行われます。
また、たとえ言葉がなくても、その人のわずかな表情、まばたき、声のトーン、体の動きなどを通じた意思表示に注意を払い、安心・快適な刺激(好きな音楽、やさしい触れ合い、香りや季節の空気など)を取り入れるケアも重要とされます。こうした「五感を通じた配慮」は、心身の安定やQOL(生活の質)の維持に大きく寄与します。
■ 「治療」の考え方 — 回復ではなく“ケアと支援”が中心
知的障害、特に最重度の知的障害においては、「治療して元の認知機能を回復する」という意味での医学的治療は、現時点ではほとんど存在しません。これは、知的障害が発達期に生じた脳の発達の遅れや構造の違い、あるいは出生前後のさまざまな要因によるものであり、後天的な疾患のように「治療で正常化する」ものではないからです。
したがって最重度知的障害では、「医療的ケアと福祉支援によって安全・安定した生活を維持する」こと自体が主な“治療”の意味となります。具体的には、栄養管理、けいれん管理、口腔ケア、排泄・体位管理、定期的な健康チェックといった、生活の基盤を支えるケアが中心です。また、本人の快・不快のサインに配慮し、できる限り快適な環境を整えることが、QOL向上につながります。
さらに、もし知的障害の背景に遺伝や先天性の障害、脳の構造異常などが疑われる場合には、遺伝子検査や画像検査(頭部MRIなど)、血液検査などで原因を探る試みがされることもあります。こうした情報は、将来的な医療ケアや家族への遺伝カウンセリングの検討に役立つ可能性があります。
■ 支援制度との関わり — 医療と福祉の連携で
日本では、最重度知的障害のある人は、自治体ごとの支援制度(たとえば療育手帳など)を通じて医療・介護・福祉の支援を受けることが多いです。こうした制度を活用しながら、医療と福祉が連携することで、医療的ケアと生活支援が包括的に提供されることが理想です。特に、てんかんや嚥下困難、呼吸器管理、栄養管理など医療的ニーズが高い場合には、専門性のある施設や医療機関と連携することが重要です。
また、支援の内容や量は人によって大きく異なるため、「一人ひとりの生活歴や好み、ペース」を大切にしながら、その人にとって意味あるケアを考えることが重要です。
