音声障害の法的な位置づけと認定基準
日本では、身体障害者福祉法に基づき、「音声・言語機能障害」は身体障害の一つとして認定されます。対象となるのは、喉頭摘出、声帯麻痺、構音器官の異常などによって発声や発音に著しい支障がある場合です。
認定の目安としては以下の通りです。
-
3級:発声機能を完全に喪失している(声が出せない)
-
4級:発音が極度に困難で、意思伝達に著しい支障がある
このような認定を受けるには、耳鼻咽喉科などの専門医による診断書や、音声・構音機能検査、生活におけるコミュニケーションの困難さに関する記録などが必要とされます。単に医療上の所見だけではなく、生活実態の観察が重視される点が特徴です。
参考:島根県「音声機能障害の認定基準」
https://www.pref.shimane.lg.jp/medical/fukushi/syougai/sintai_syougaisya/ninteikizyun.data/3y-onsei.pdf
障がい者支援制度における位置づけ
音声障害を含むすべての障がいは、障害者基本法に基づき、国と自治体が支援すべき対象として定められています。教育・医療・福祉・労働など、あらゆる分野で「合理的配慮」が求められており、音声障害についても例外ではありません。
さらに、日本は国際的にも「障害者の権利に関する条約(CRPD)」を批准しており、音声によらない意思疎通手段(筆談、補助機器、ICT等)を保障する国際的責任を負っています。
参考:外務省「障害者の権利に関する条約」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html
こうした枠組みのもと、自治体や支援機関では次のような支援が提供されています。
-
筆談器、音声合成装置などの補装具の給付・貸与
-
コミュニケーション支援者(要約筆記、手話通訳など)の派遣
-
障がい者総合支援法に基づく相談支援や訪問支援
働く場での配慮と法制度
就労の場でも、音声障害を持つ人々は障害者雇用促進法によって保護されています。この法律は、企業に対して一定の割合で障がい者を雇用することを義務づけると同時に、働く上で必要な「合理的配慮」を講じることを求めています。
具体的には、以下のような対応が想定されます。
-
筆談やチャットツールによる業務指示への対応
-
発声を伴わない業務への配置転換や業務分担の調整
-
在宅勤務・テレワーク環境の整備
-
ICT支援機器の導入とサポート
ハローワークをはじめとする公共機関では、職場適応訓練や就労移行支援、障がい者専用窓口による求人紹介など、段階的な支援体制が用意されています。必要に応じて、職場への支援員派遣なども可能です。
厚生労働省「障害者の雇用対策」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284.html
社会的理解と支援の課題
法制度の整備が進んでいる一方で、音声障害は「目に見えにくい障がい」として、周囲の理解を得にくい現実があります。たとえば、軽度の障害であってもコミュニケーションに強い不安や制限を抱えている場合、制度の認定対象外となることもあり、「制度の谷間」に取り残されてしまうこともあります。
また、声を出すことに時間がかかったり、緊張によりさらに発声が困難になるといった二次的な困難は、単なる機能障害以上の困りごとを伴います。このため、制度上の支援だけでなく、職場・学校・地域社会における理解と共感が不可欠です。
音声を使わないコミュニケーション手段が社会の中で当たり前に存在し、声の出にくさを責められることのない環境づくりこそが、真の「共生社会」の一歩となるでしょう。
【参考リンク】
・一般社団法人 障がい者アート協会|活動紹介
https://www.borderlessart.or.jp/activity/
・アートの輪
https://artnowa.org/
・島根県「音声機能障害の認定基準」
https://www.pref.shimane.lg.jp/medical/fukushi/syougai/sintai_syougaisya/ninteikizyun.data/3y-onsei.pdf
・外務省「障害者の権利に関する条約(CRPD)」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html
・厚生労働省「障害者の雇用対策」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284.html
